それは私が某デパートのトイレ(大)を利用したときのこと。
他に利用者はいない。
そんな静寂の中で粛々と私のミッション(脱糞)は進行していた。
そこにひとりの少年が入ってきた…
少年の苦悩
年齢は5歳くらいか。
入室後、一瞬だけ間をおいてから、可愛くも困惑した声が聞こえた。
「あ!高い〜」
「とどくかなぁ…」
「う〜ん…よいしょ…」
「あ、とどいた〜!」
子供は実況するからおもしろい。
どうやら用を足すことはできたようだ。
第1ミッションコンプリート。
まだ小さいのに、ひとりでトイレができるとは、えらいぞ少年!
しかし、少年のミッションは終わっていなかった…
第2ミッション
蛇口をひねり、水が流れる音が聞こえる。
少年は手を洗っているのだ!えらい!
大人でさえ手を洗わない不届き者が多いのが男性用トイレの実態だ。
誰からも指示されることなく手洗いができるなんて…
最近の若者も捨てたもんじゃない。
しかし、私はすぐに戦況を理解した。
まずい…
このトイレの洗面台はせっけんの位置が高い。
トイレにぎりぎりとどくくらいの身長では、せっけんに手がとどかない。
案の定、少年の口から苦悩の声が漏れる…
「とどかないよぅ…」
「お水だけにしよう…」
すまん!少年よ!おじさんもミッションの真っ最中だ。救援はできない。
壁一枚で隔てられた見えない戦況。少年の苦悩。なんとも歯がゆい。
しかし、与えられた状況の中で自分なりに最善を尽くす行動力と判断力は素晴らしい。うちの会社に来て欲しいくらいだ。
ブオーン…
手を乾かす音が聞こえる。
「よし!」
少年は不完全ながらもミッションの完了を声に出した。
声出し確認だ。出来た少年だ。
そして少年は静かに去っていった。
トイレのドアの向こうから元気な声が聞こえた。
「ママ〜できたよぉ〜!」
私は独特の臭いに包まれた個室の中で、心が和むのと同時に『はぁ…』と、ため息を漏らした。
「とどいた」は本当にとどいていたのか?
少年はとどいたと言った。
でも私は思った。
とどいてないだろうな…
なにをもって『とどいた』とするのか、この定義が問題だ。
たぶん、小便は便器の中に入ったであろう。
しかし…
ここは見えてないので想像だが…
少年のカラダは便器に接触していたのではないか?
ぎりぎりの体勢をイメージすればわかる。
便器に押し付けるようにしなければ小便は足元に落下してしまう。
この状況を『とどいた』と言って良いものか。
なにかが違う気がした。
適正身長の表示を
男性用の小便器は位置が高すぎて子供には使えない場合がある。
自分で用を足すことができる子供でも、便器の形状がそれを許さない場合があるのだ。
子供の自立を促すために、ひとりでチャレンジさせるのは良いが、保護者には達成可能な状況か考えてみてほしい。
保護者が男性なら同伴すればいい。
問題は保護者が女性の場合だ。
子供の年齢が上がると、女性用トイレに同伴させることに抵抗があるかもしれない。
子供自身もいずれは抵抗を感じ始めるだろう。
そのような、女性用トイレへの同伴をためらう人のために、ひとつの判断基準として、トイレの入り口に適正身長の表示があれば良いと思う。
設置されている小便器の高さのラインの目印をトイレの入り口に描いてくれれば、子供がひとりで用を足せるのか、外から判断できる。
身長が足りなければ女性用のトイレに同伴してほしい。
女性とトイレ設計者にお願い
男性用トイレには、便器の位置が高すぎて子供が利用できない場合がある。
男の子が女性の保護者と一緒に女性用トイレに入ってきたら、温かい目で見守ってあげてほしい。
トイレの設計をする人は、利用者の身長を考慮してほしい。
大人でも使いにくいと感じる高さのトイレもある。
大便器で用を足せればよいが、男性用トイレの個室は往々にして満員御礼状態だ。
施設の設置責任者にも、この点の考慮をお願いしたい。
また、便器だけでなく洗面台も同様の配慮を。
さいごに
最近は子供用の便器や洗面台を見かけることもあります。
しかし、その普及率はまだまだ十分ではありません。
私は今回のような光景を何度か見た(聞いた)ことがあります。
利用者は大人だけではありません。
小さい人にも使いやすいトイレをよろしくお願いします。
また、女性の保護者の方も、男性用トイレは子供が利用できない場合があることを知っておいてほしいです。
それではまた。